放置人工林が釣り人に与える影響を学ぶ【釣り人のための自然環境学】
昨今、ひそかな注目を集めている放置人工林問題。放置された人工林は、森林の慢性的渇水や土砂災害などの原因になり、河川に悪影響を及ぼす。私たち釣り人にとって、見過ごせる問題ではないだろう。しかし、そのような環境学的な内容は、難しさを感じるため敬遠してしまいがちだ。
そこで今回は、「そもそも人工林と天然林の違いは何なのか」「人工林がなぜ河川に影響を与えるのか」など、なるべくわかりやすく解説する。人工林が河川に与える影響を知り、釣りを楽しむ一人ひとりが自然を大切にする意識を高めていきたい。
Contents
天然林と人工林の違いとは?
天然林と人工林の違いを簡単に言うならば、「人為的管理が必要かどうか」にある。まずは、天然林について取り上げたい。一口に天然林といっても種類はさまざまだ。
たとえば、マツやコアラなど日当たりのよいところを好む陽樹。クスノキ、ブナ、エゾマツなど、暗い森の中でも育つ隠樹などがある。
天然林の場合、それぞれの木が植物や森林との循環を促している。だから、人の手を借りることなく、よい環境を維持できるのだ。
一方、人工林は、材木生産を目的としている。スギやヒノキなどの針葉樹といった、同じ種類の木を植えているケースが目立つ。また、人工林の場合、まっすぐになるよう木を育てており、木と木と間は狭い。
そのため、成長にあわせて間伐や枝打ちを施さなければ、育ちが悪くなってしまう。
放置人工林が釣り人に与える3つの影響
放置人工林が釣り人に与える影響は、主に3つある。順番に解説しよう。
河川の渇水
河川の渇水は、土壌にある微細粒土砂(0.1mmより小さい土砂のこと)の量が関係している。雨が降ると本来、土壌にある微細粒土砂が水分を含み、時間をかけて河川へと流れ出していく。
しかし、放置人工林は乾燥化により、微細粒土砂が河川へと流出してしまう。そのため微細粒土砂が少なく、水分を保っていられないのだ。それが原因となり、一気に増水したのち渇水することになる。
濁りやすい
適度な間伐などを行わないと、必要以上に葉が茂ったり、木が多くの水分を必要としたりする。そのため、本来川に流れ出るはずの水分までもが奪われるのだ。
結果として土壌は乾燥化し、雨が降ると土砂が河川に流出しやすくなる。それが濁りの原因につながるのだ。
土砂災害
土砂災害の原因の1つが、痩せ細った木だと言われている。木の密度が高い人工林を放置すると、山の地表に日光が届かず草木は根を張れない。
やがて木は痩せ細っていく。そのような状況で大雨や台風が発生した場合、根が水分を吸いきれずに土砂崩れを起こしてしまうのだ。
解決の糸口は森林の状態を個別に見た施業計画
岐阜大学工学部教授である篠田成郎氏は、森林の状態を見て個別に施業計画を立てる必要があるという。
なぜなら、状態の悪い土壌にも関わらず強度な間伐を施すと、余計に土砂を流出させる原因になり、かえって逆効果になるからだ。
ポイントは、少しだけ光を入れるほど間伐し、下層植物を育てることにある。下層植物が土壌の回復に役立ち、間伐による土砂の流出を防いでくれるというわけだ。
ようするに、ただ光を入れるための間伐ではなく、土壌の状態を見ながら徐々に間伐量を増やしていく。そのような計画的な施業が重要だ。
ただし、林業従業者や行政、流域住人などの協力が必要なため、放置人工林問題を解決するには、まだまだ時間がかかる。早期解決を願うばかりだ。
原生林に囲まれた美しい釣り場を紹介
暗い話が続いたため、最後は明るい話題で締めたい。原生林に囲まれた、北海道の美しい釣り場を紹介しよう。
阿寒川
「ニジマス狙いなら阿寒川が一番」といわれるほど有名なエリア。阿寒湖流出口~雄観橋下流端は、キャッチ&リリースエリアに設定されている。
屈斜路湖
力強いアメマスやニジマスが釣れることで人気の屈斜路湖。カルデラ湖としては最大の規模を誇り、観光地としても有名だ。
「放置人工林」は釣り人にとっても見過ごせない問題
放置人工林は、地域住民はもちろんのこと、釣り人も見過ごせない問題だ。とはいえ、個人の力で解決できる問題ではないだろう。
だからこそ一人ひとりが、自然を大切にするという自覚を持つ必要がある。いつまでも釣りを楽しむことができる、環境づくりをしていきたいものだ。